ここに身を置きたくなる

ここで何かを始めたくなる

そんな風に、人々の集いや関わりを誘い、縦横のつながりを生む場所

それがわたしたちの描く「平地の杜」です


石巻市北上町

 

このプロジェクトが始まった宮城県石巻市北上町は、宮城県石巻市の東部に位置し、北側は南三陸町、登米市と接し、南東側は太平洋に面しています。地域内には、「残したい日本の音風景百選」に選定されたヨシ原が広がる北上川を有し、川と山と海が織りなす風光明媚な町として親しまれています。漁業、農業が盛んで食材の宝庫とも呼ばれています。

 

*震災前の人口: 3,896 人/1,151 世帯(2011年 2月現在)

*現在の人口 : 2,183 人/   934世帯(2022年 2月現在)

 

東日本大震災

 

2011年3月11日、東日本大震災では津波の被害が甚大で、死者、行方不明者を含め 296人の方が犠牲となりました。家屋被害も多く、当時の北上町は 1,151世帯が暮らしていましたが、全壊は 535棟、大規模半壊 91棟、半壊や一部損壊は 383棟となりました。

 

現在、平地の杜(第一の杜)として取り組みがはじまったのは、その北上町の立神・長塩谷(ながしおや)集落です。ここは、北上川から太平洋にそそぐ河口に位置し、海沿いに十三の浜が連なる十三浜地区のひとつです。かつては立神・長塩谷地区として、 58世帯・ 175名の住民が暮らしていましたが、現在は、7世帯のみとなってしまいました。住民の皆さんが復興として選んだのは、集落ごとに高台の山林を切り開き、新たに造成した集落へと移転する「防災集団移転」でした。 

 

この防災集団移転は、北上地域全体で、232世帯が 10団地に分かれて移転することとなり、住民への引き渡しは 2017年 9月に終えています。その後、北上総合支所や小学校等の主要な公共施設も高台へと再建され、震災から 10年が経ち、本プロジェクトが始まった 2021年現在でも、公園や防潮堤やトンネル工事などが進められています。

2011年3月12日撮影 石巻市北上町長塩谷地区
2011年3月12日撮影 石巻市北上町長塩谷地区
現在は、立神・長塩谷地区と、隣接していた白浜集落の住民がひとつの新たな集落となり、高台に移り住んでいます。
現在は、立神・長塩谷地区と、隣接していた白浜集落の住民がひとつの新たな集落となり、高台に移り住んでいます。


私たちが いま 決めることの全ては、未来を決めること

 

東日本大震災から 10年が経とうとしていたある日。美しく水面が光る北上川を横目に過ぎ、どこまでも広い青い空と水平線が一望できる気持ちのよい海を眺めながらいつもの道を車で走っていた時、ふと、なぜかその日は視界に飛び込んできた光景がありました。それが、住民が高台へ移り住んだ後、まるで初めからそうだったかのように取り残され、荒廃した集落跡地でした。人々が先祖代々暮らしてきた、思い出深いはずの集落の変わり果てた姿です。

セイタカアワダチソウやツル草が生い茂った集落跡地(2021年 3月撮影)
セイタカアワダチソウやツル草が生い茂った集落跡地(2021年 3月撮影)
かつての住宅の庭の面影が残ったままの集落跡地(2021年 9月撮影)
かつての住宅の庭の面影が残ったままの集落跡地(2021年 9月撮影)

これまでの復興 10年で、私たちが決めてきたこと全てが、自分達やこの町、子ども達の未来にとって、本当に正しい選択だったのか。私たちが走ってきたこれまで 10年の先に「見たかった未来」がこの光景だったのか。「復興」とは、もっともっと未来のことにも想いを寄せるべきではなかったのか。この先の「あり得る未来」のどれを選ぶのか。なにを子供たちに残すのか。今ふたたび、その大切な選択を問われている気がしました。

 

これから始めること

 

私たちの新たな挑戦は、そんな震災から 10年目を迎えようとする日の些細な日常のシーンから生まれたものです。硬く乾いた大地、人が訪れることもなくなったその場所を、美しい草木たちが元気に育つ、そこに身を置きたくなる気持ちが良い場所へと再生したい。そんな未来を選びたい。祈りにも近い思いから始まりました。

そして今、石巻市や復興庁、全国の皆様からも応援をいただき、「平地の杜づくりプロジェクト」として小さな行進が始まったのです。

 


被災した集落跡地を美しい場所へ

 

このプロジェクトは、東日本大震災で津波の被害を受け、今は暮らすことが出来なくなった集落の跡地を、人々がまたそこに身を置きたくなる、訪れたくなる、気持ちの良い美しい場所へと蘇らせる挑戦です。

 

かつて集落であったその場所は、大地が本来持つべき貯水力や浄化力の力を失い、乾いて痩せたまま。生き物が生きるには決して環境が良い場所ではありません。そんな大地を再び自然へと預け直す、つまり、宅地を杜へと戻す逆転的開発ともいえるプロジェクトです。

 

 

横のつながり、縦のつながりをつくる場所

 

「美しい」「気持ちが良い」そう感じられる場所に身を置くことで、人はその地に愛着を感じていくのはないでしょうか。 木々の枝葉越しに日差しが点々と差し込み、風が穏やかに流れ、適度な湿度が保たれた健全な環境があり、それを全ての生き物たちが訪れて享受できる。そんな場所にすることで、時間が止まったかのようなこの場所に、人々の横のつながりを育み、過去と未来という縦のつながり、命のつながりを守ります。

 

未来を描くこと

 

これから行っていくことは、水や風が通う大地を一から育て直すという作業です。それは、この時代にこの場所で生きる私たちの「作法」なのかもしれません。

古くから先人が守ってきた集落に、再び美しい里山の景観を取り戻していく。それは、未来を描くことです。このまち、この大地の持つ力を蘇らせ、次世代へしっかりと繋いでいきます。