オンライン・トークイベント【中編】

土中環境って何?健康な山・川・大地とは?

<長塩谷地区現地調査の様子。山の表面も乾いている>

 

平地の杜プロジェクト、第1の杜となる「長塩屋・立神地区」は、以前も書いた通り北上川沿いの集落で、津波により被災。現在は、かつて暮らしていた場所の近くの山を切り開き、その高台で人々が暮らしています。集落跡地は「巨大な防潮堤で陸と川が分断され、取り残されている」のが現状です。

 

山からの水は、地下を通って川へと出られるようになってはいますが、元の水の流れを妨げられた結果土地が荒廃していくというパターンは、とても多いのだそう。

 

そして集落跡地だけでなく、山の表面も上の写真のように乾いていました。健康な山は土が多孔質で、そこには菌類や微生物が棲み、木々の根っこが地中深くまで張り巡らされています。その状態なら、土の表面が乾いてきても下から水が浸み出し、地面は常にしっとりしているそう。つまり、この地域は平地だけでなく山もカサカサに乾き、かなり状態が悪化しているということです。

 

 

普段山に入ることはあっても、表面が湿っているかどうかまで気にしたことがないという人も多いのではないでしょうか?そんなにわかりやすいところでも山の健康状態が測れるのかと驚きました。

上の画像のように、山の水は川底のさらに下を流れる伏流水域をも養います。そのおかげで川は大雨でも増水せず安定を保つことができるのだそう。そのため山が健康=土中環境が良好な状態なら、ちょっとやそっとの大雨では洪水は起きません。

 

しかし、山が壊れてくる=土中環境が悪化してくると、土の中の水や空気の流れが停滞します。すると山に降った雨水は行き場をなくし、泥水となって川にどっと押し寄せます。それにより川底が詰まり、大地に水が浸み込まず、より洪水が起きやすくなるという悪循環になってしまうのだそうです。

<防潮堤は内水氾濫を起こし、より危険になる可能性も。また、何十トンという土砂や丸太を押し流す力もある泥水を、水門など人工的なものだけで対処しようとする怖さについても考えなければいけないと高田さん。より危険に導くことになっていないか?>

上の防潮堤の画像のように、現在一般的に行われている増水工事は、「山からの水をどう効率的に押し流すか」という視点で行われていて、「山全体の健康を保つ」という視点が欠けているそう。

 

 

「それが土地を傷めているとしたら、僕たちは未来に対して大きな間違いを起こしていると言ってもいいのではないか。誰しも悪いと思ってやっているわけではないけれど、問題が起きているとわかった時点でやり方を見直していくというのが、未来に対する責任だと思う。」という高田さんの言葉が胸にズシンと響きます。

山の健康状態を左右する土中環境について、もう少し詳しく見てみましょう。


土中環境が良好=健康な山では、高木・中低木・低木と階層状に多様な植物が共存しています。また、老木の陰で若木も育ち、老木が倒れたらすぐに若木が伸びて森を継続させられるようになっているのだそう。このように、森が自律的に保たれるのが健康な状態です。

 

上の画像のように、健康な山では土の深くまで水と空気が流れているので、低木は浅いところに、高木は深いところまで根を張り住み分けが可能です。ところが、水路や道路の改修、谷の埋め立てなどにより水脈が分断されると、そこから山頂まで土地の荒廃が始まります。

 

水脈が分断されると地面の下が詰まり、浅いところで水が停滞・腐敗。そうすると高木は深いところまで根を伸ばせず、低木と高木の根っこが浅いところで喧嘩を始めてしまいます。そして深い根っこを必要とする高木から枯れ始め、そうなると、青々とした森も数年で藪へと姿を変えてしまうそう。

高木枯れというと病気や虫のせいにされることが多いですが、それも大半は土中環境の悪化に伴い病気や虫に耐えられなくなってしまっていることが原因なのだそう。そのため殺虫剤などでの対処は実は意味がなく、土中環境を改善させることで十分に対処できるのだそうです。

 

 

何らかの原因で土の中の水や空気が停滞すると、山はそれを解消しようと働きます。それが人間の暮らしに影響する場所で起こると「災害」と呼ばれますが、あくまでも安定して呼吸できる環境を取り戻そうとする自然の作用であるという視点から対策を考えないと、災害が連鎖し手に負えない事態になりかねないと高田さんは訴えます。

 

そしてそれは、砂防ダムや治山ダムも例外ではありません。

下の写真は、2011年に大水害が起きた阿蘇の治山ダム(上右)と、全く泥水が流れていない周辺の清流(上左)です。

「治山ダムがなかったらもっとひどいことになっていた」と思う人が多いと思いますが、本当にそうでしょうか?周辺には、泥水の全く流れていない清流がいくつもあったそう。また、ダムの上部は、かなり上まで山が荒廃していたそうです。

 

「日本中に100万基を超えるとも言われるダムが作られているけれど、ダムの上の山林を良い状態に保つことを主眼にしなければ、ダムから下でいくら対策をしても本当の対策にはならない。最終的には他の場所へ移転することとなり、僕たちは国土を、ふるさとを失うことになる。

そういうことが、今の悪気のない対策の中で繰り返されているし、このままいけばこれからも繰り返されてしまいます」。